名古屋の弁護士のブログ

守秘義務に反しないよう、受任事件とは関係ないことについて雑記するブログです。

いいねを5000件獲得する契約の委託料支払請求権が発生しているとされた事例

東京地判平成28年2月10日

【事案の概要】

(1)原告は,インターネットでの広告業務等を目的とする株式会社であり,被告は,「Xクリニック」との商号で,一般診療,美容診療の診療所を経営する医師である。(争いがない事実,弁論の全趣旨)
(2)本訴請求は,原告が,被告との間で締結した5つの業務委託契約,すなわち,①aクリニックの美容外科ホームページ制作に関する契約,②WEBコンサルティングに関する業務委託契約を基本契約として,これに基づき締結されたXクリニックのfacebookページ最適化をサービス内容とする個別契約及び同facebookページに,5000人から「いいね!」との評価を獲得することを内容とする個別契約,③リスティング広告管理委託契約,④aクリニックの一般診療(保険診療)ホームページ制作に関する契約に基づき,被告に対し,各業務委託契約上の未払委託料の合計1205万3679円及びこれに対する訴状送達の日(平成26年6月24日)の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(3)反訴請求は,被告が,原告に対し,上記(2)②のうち,facebookページ最適化をサービス内容とする個別契約を締結した被告の意思表示には要素の錯誤(民法95条本文)があるため一部無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき,既払委託料588万円及びこれに対する反訴状送達の日(平成27年6月5日)の翌日から支払済みまで年5分の割合による民法704条所定の利息の支払を求める事案である。

【判旨】

 WEBコンサルティング契約に係る契約書には,納入及び検収に関して,①原告は,個別契約に定める納期までに成果物を被告の定める場所に納入する,②被告は,納入日から起算して14日以内に,自らの負担において検収を行い,原告に合否を通知するものとする。合格を通知した後,被告は,速やかに検収に合格したことを証する書面(検収証)もしくはEメールを原告に交付する。なお,原告は,上記期間を経過しても被告からの合否の通知がない場合,当然に検収に合格したものとみなすことができる,③被告は,検収に合格した場合,直ちに検収証を交付し,原告に交付するものとする。なお,当該成果物の所有権は,被告が検収証を原告に交付し,当該成果物に係る業務対価を支払ったときに被告に移転するとの定めがある。(6条1項,2項,4項)
 これをいいね5000獲得契約に即して考えると,原告は,成果物として,5000人から「いいね!」という評価を獲得することが求められており,成果物が完成したというためには,被告が成果物の完成を承認する検収証を交付することが求められている一方,被告が検収証を交付した場合には,それと同時に対価である委託料支払請求権が発生することを想定しているものと解釈できる。
 本件においては被告が検収確認書を交付している以上,委託料支払請求権は発生しているというべきである。

 本件では、facebook上のいいねの獲得経過について、被告からいいねの獲得経過等について次の主張がなされました。

1.被告は検収確認書に署名押印したが,5000件が達成されたかどうか明らかでないし,原告が報告したファンの獲得人数増加の経過があまりに不自然であり,正規のファンではなく,さくらの疑いがある。
2.また,契約書には,5000人のいいねを獲得する達成時期として,「5週間程度かかります」と明記されているが,facebookページの初期設定を検収した平成24年4月19日から約6週間経過した同年5月末日時点でも33人しかファンの人数を獲得できておらず,上記のとおりファン獲得人数増加の経過報告も不可解であるなど,原告は誠実に債務を履行していない。

裁判所はこの点について、「被告は成果物の完成を承認する検収確認書を交付している以上,当然に委託料支払義務を負担するのであって,実際にその成果が達成されていたかどうかを問題にする被告の主張はそもそも採用できない。また,いいね5000獲得契約の委託業務はあくまでfacebookページに5000人のファンを獲得することであって,どのような方法を用いてかかる成果を達成するかは原告の裁量に委ねられていると考えられ,ファン数の増減の経過等の報告に不備があることをもって,債務を履行していないなどということはできない。」「さらに,原告は,Xクリニックのfacebookページが5000人のいいねを獲得した時点での同ページのキャプチャー画面の画像及びその画像を添付送信したメール画面を証拠提出しているところ(甲54の1ないし3),これに対する被告からの有効な反論,反証はない。」として、被告の主張を排斥しました。