名古屋の弁護士のブログ

守秘義務に反しないよう、受任事件とは関係ないことについて雑記するブログです。

強制執行停止の供託金を差押えて回収するまでの手続

強制執行停止の担保のために積まれた供託金の差押えから回収について、あまり文献やネット記事もないので書いてみます。

地方だと強制執行停止事件の発令裁判所もあまり経験がないようなので、これから初めてやろうという人には参考になる情報かと思います。

1.供託書の写しの謄写

まずは供託番号等を確認するために、担保供与者が提出した供託書の写しを謄写申請します。

供託書の写し自体を使う機会は特にないので、供託番号等が分かれば謄写は省略できます。

謄写申請は記録がある裁判所にします。

2.供託金の差押・転付命令の申立

供託番号等が分かったら、供託金の差押・転付命令の申立てをすることになります。

差押えや転付命令の申立は通常のものと同じですので、特に問題なく進められると思います。

供託金を差押える場合の第三債務者の記載は「国」、代表者は「○○法務局供託官 ○○」となります。

このあたりの記載例は以下の書籍に載っています。

 

 

転付命令が必要なのは、担保取消(または担保取戻許可)申立や供託金の取戻請求を担保供与者の承継人として行うためです。

3.転付命令の確定証明申請

無事、供託金の差押命令と転付命令が発令されたら、転付命令の確定証明申請をします。

転付命令の確定証明は、後の担保取消申立、供託金の取戻手続で使用します。

担保取消申立に使った確定証明は戻ってきますが、念のため2通取得しておいた方が無難かもしれません。

4.担保取消(または担保取戻許可)の申立て、供託原因消滅証明申請

ここまでは、割と書籍とかでも載っているのですが、ここから先は記載してあってもアバウトな感じです。

まず、手続の選択ですが、下記の民事実務講義案Ⅱ、供託実務事例集等によると、民事保全規則17条第4項に基づき、担保の簡易取戻を強制執行停止申立事件等でも行える旨の記載があります。

 

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流れとしては、簡易取戻の手続を試みて、だめなら原則どおり担保取消の申立てを行うという流れが解説されています。

実際に、強制執行停止決定を発令した裁判所にお伺いを立てたところ、簡易取戻の手続は、条文にないからダメだということで、担保取消申立にして欲しいといわれたことがあります。

この考え方は係属部によってことなると思うので、差押え手続と併行してあらかじめ確認しておくべきです。

個人的には裁判所を説得する労力をかけるメリットが特にないので、原則どおり法律上の根拠がある担保取消申立にしておくのが無難だと思います。

担保取消の進め方

担保取消申立をする場合、申立先は現在の事件の係属部ではなく、強制執行停止決定を発令した地裁になります。

ここで、担保取消申立をするにあたって、民訴法79条の1~3項のどれにするかという問題が出てきます。

私個人としては、担保権者(債権者)が担保供与者(債務者)の地位を転付命令により承継し、担保権利者と担保供与者の地位が同一人に帰すことで、当然に担保の事由が消滅するものとして民訴法79条1項に基づき取消されるものではないかと考えます。

ただ、私が経験した案件では、発令裁判所からは、同意がなされたという構成(民法方79条2項)にするといわれ、同意の場合に必要な即時抗告権の放棄書を求められました。同意書はさすがに求められませんでした。同意構成も理屈的にはおかしくはないと思いますが、ちょっと技巧的すぎる印象を受けました。

結局、担保取消申立にあたって裁判所に提出することが必要になったのは、以下の書類でした。裁判所によって考え方が異なってくると思われるので、事前に確認が必要です。

  • 担保取消申立書
  • 委任状
  • 即時抗告権の放棄書
  • 債権差押及び転付命令
  • 転付命令確定証明書

また、併せて供託原因消滅証明申請書を提出しておきます。

5.供託金取戻請求

無事担保取消決定が発令されて、供託原因消滅証明申請書を取得したらほぼ終わったようなものです。

供託金の取戻請求に必要な書類は以下のとおりです。あらかじめ委任状と印鑑証明書を依頼者からもらっておくとスムーズです。

  • 供託金払渡請求書
  • 供託原因消滅証明書
  • 転付命令確定証明書
  • 委任状
  • 依頼者の印鑑証明
  • 依頼者の登記(法人の場合)

6.まとめ

担保金への差押えなので、競合する債権者がいなければそれほど急ぐ必要もないと思いますが、依頼者に説明するために必要な手続きの流れを解説しました。

裁判所次第なところもあるので、その都度裁判所と相談しながら行うのがよいと思います。