名古屋の弁護士のブログ

守秘義務に反しないよう、受任事件とは関係ないことについて雑記するブログです。

Google AdSenseの報酬請求の管轄が日本にないとして訴えが却下された事例

東京地判平成27年9月8日

【事案の概要】

自己が管理するウェブサイトに、被告によるクリック型広告を設置した原告が、約2ヶ月分の広告料106万5436円及び遅延損害金を求めたが、契約条件には「本契約に基づくまたはこれに関連して生じる一切の紛争または請求については,カリフォルニア州サンタクララ郡の裁判所において裁判が行われるものとします。」との規定があった。

 【判旨】

「ある訴訟事件についての我が国の裁判権を排除し,特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は,①当該事件が我が国の裁判権に専属的に服するものではなく,②指定された外国の裁判所が,その外国法上,当該事件につき管轄権を有する,という要件を満たす限り,原則として有効であると解されている(最高裁昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁)。
 この点,本件訴訟が我が国の裁判権に専属的に服するものであることをうかがわせる事情はない。
 したがって,本件においては,本件規定により指定された外国の裁判所であるサンタクララ郡の裁判所が米国法上本件訴訟について管轄権を有するか否かが問題となるところ,証拠(乙1)によれば,米国法上,カリフォルニア州の裁判所は,外国当事者のみが関与する事件についても管轄権を有しており,実際にもそのような事件について審理をしているものと認められる。」

「そうすると,本件規定は,原則として有効なものというべきである。」

「もっとも,国際的専属的裁判管轄の合意が甚だしく不合理で公序法に違反するようなときには,管轄合意は無効となるものと解されているところ(前掲最高裁判決),原告は,平成23年の改正により追加された民事訴訟法3条の7第5項の規定(消費者契約に関する紛争を対象とする管轄合意が効力を有する場合について定めたもの)と同様の基準で本件規定の効力の有無を判断すべきであると主張するが,同改正前に締結された本件契約につき,上記条項によって判断すべきとする根拠はない。
 そこで,上記条項によらずに,本件規定が公序良俗に反するかについて検討するに,原告は,被告が世界的な企業グループの一員であるのに対し,ウェブサイト運営者の多くが圧倒的に弱い立場にあり,ウェブサイト運営者に支払われるべき金額は多くの場合比較的少額である等と主張するが,本件契約のようなウェブサイト等での広告配信サービスに関する契約において,ウェブサイト運営者は,被告から金銭の支払を受けて利益を得る立場にある上(甲2,乙2,4),支払を受ける(べき)金額が多くの場合比較的少額であるとする点については,これを認めるに足りる証拠がない。したがって,一概にウェブサイト運営者が被告と比べて圧倒的に弱い立場にあるということはできない。
 また,原告は,本件規定が,被告において莫大な利益を不当に得ることを可能にするものであると主張するが,被告が広告料の支払を拒否することによって利益を得ると認めるに足りる証拠はない。
 さらに,原告は,サンタクララ郡の裁判所が当事者双方と無関係であることから,本件規定が不合理であると主張するが,同裁判所の管轄区域内には被告の関連会社があることもうかがわれるから(甲15,弁論の全趣旨),同裁判所が当事者双方と無関係であるということはできない。
 このほか,原告は,訴訟を提起するのが常にウェブサイト運営者の側であるかのような主張をするが,上記ウェブサイト等での広告配信サービスに関する契約に基づき,被告がウェブサイト運営者に対して損害賠償請求をするなどの場合も考えられるのであって,原告の主張は当を得たものとはいえない。
 以上検討したところによれば,本件規定が公序良俗に反して無効であるとする理由はないといわざるを得ない。」

AdSense報酬の請求に関する事件です。この裁判例によれば、AdSenseの未払報酬に関する裁判管轄は日本には認められません。

費用対効果の関係で、現地で裁判を起こすということも現実的にはできないでしょうから、AdSense報酬の支払で問題が生じた場合は、日本のサイト運営者は泣き寝入りになってしまうことになります。

仮に、日本の裁判所に管轄が認められても、相手方の財産が日本国内になければ執行することはできないので、やはり困難な問題が生じます。