名古屋の弁護士のブログ

守秘義務に反しないよう、受任事件とは関係ないことについて雑記するブログです。

名誉毀損の時効(民事、刑事)-ネット上の誹謗中傷対策

名誉毀損の時効について解説します。

名誉毀損は民事上は民法の不法行為、刑事上は名誉毀損罪の問題になりますので、民事上、刑事上の時効がそれぞれ問題となります。

民事上の時効は損害及び加害者を知った時から3年

名誉を毀損された者は、名誉を毀損した者に対して損害賠償請求をすることができますが、「損害及び加害者を知った時」から3年間経過してしまうと時効によって損害賠償請求権が消滅します(民法724条)。また、名誉を毀損された時から20年間経過した場合も同様です(加害者が特定できないまま20年経ってしまったような場合)。

ここでいう「加害者を知った時」とは、判例上「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知つた時を意味する」とされ、「加害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき」に「加害者を知った時」にあたるとされています。*1

刑事上は6か月の告訴期間に注意

名誉毀損罪は、親告罪といって刑事告訴がなければ起訴することができません(刑法232条1項)。

親告罪には告訴期間が定めらており、「犯人を知った日」から6か月以内に刑事告訴をしなければいけません(刑訴法235条)。

「犯人を知った日」とは、判例上「犯人が誰であるかを知ることをいい、告訴権者において、犯人の住所氏名などの詳細を知る必要はないけれども、少くとも犯人の何人たるかを特定し得る程度に認識することを要する」とされています。*2

また、犯罪が継続しているような場合は、告訴権者が犯罪の継続中に犯人を知っても、その日を告訴期間の起算日とすることはできず、犯罪行為終了時が告訴期間の起算点となります。*3

インターネット上に名誉毀損の記事が公開されている場合、それが削除されるまでは被害状態が続いています。このような場合において、裁判例は名誉毀損の犯罪終了時を犯人が削除の申入れをした日と認定しています。*4

名誉毀損罪の公訴時効は3年です(刑訴法250条2項6号)。犯罪終了後、犯人がわからないまま3年が経過してしまうと、罪に問うことはできなくなってしまいます。

*1:最判昭和48年11月16日

*2:最決昭和39年11月10日

*3:最決昭和45年12月17日

*4:大阪高判平成16年4月22日「関係証拠によると、平成15年3月9日、大阪府泉佐野警察署警察官によって、本件名誉毀損事件を被疑事実として被告人方が捜索されたことなどがきっかけとなり、その2、3日後、被告人は、同警察署に電話し、自分の名前を名乗った上で、「自分が書き込んだ掲示板がまだ残っており、消したいが、パスワードを忘れてしまったので消せない。ホームページの管理人の電話を教えてほしい。」旨申し入れたところ、同警察署側において、被告人に対し、「こちらから管理人に連絡の上削除してもらうよう依頼する。」と返答した上、直ちに本件ホームページの管理者であるDに対して、「パスワードを忘れたので消せないと言ってきた。そちらで削除してやってほしい。」と申し入れ、同人もこれに異を唱えていなかった事実が認められるところ、この事実は、被告人が、自らの先行行為により惹起させた被害発生の抽象的危険を解消するために課せられていた義務を果たしたと評価できるから、爾後も本件記事が削除されずに残っていたとはいえ、被告人が上記申入れをした時点をもって、本件名誉毀損の犯罪は終了したと解するのが相当である。